「悲しい強さ・ヘイトスピーチ」

和解委員会 宮崎 誉
 
 新宿の新大久保駅周辺は韓流ブームに華咲く商店街となっているが、その町で、反韓デモが行われている。英語の「ヘイト(憎しみ)」を用いて、ヘイト・スピーチ・デモと呼ばれ、攻撃的な人種差別の言葉が飛び交っている。ネット検索で、動画を見ることができる。

 この事態に対して、安倍晋三首相も「他国の人々を誹謗中傷することで、我々が優れているという認識を持つことは、まったく間違っている」と発言している(朝日新聞5月21日)。しかし、皮肉なことにある参加者は、「強い日本を、取り戻す」という安倍氏のスローガンに高揚感を感じ、鼓舞されたと証言している。表現方法は異なるが、どこか深い根の部分で通じているのではという問いが残る。

 さて、2013年6月に日本福音同盟の総会が神戸で開催された。開催地の神戸で活躍したキリスト者、賀川豊彦から学ぼうと、孫の賀川督明氏(賀川記念館館長)が講演された。一九〇九年頃から、賀川は神戸のスラムで救済活動を開始して、教育、医療、生活改善、職業訓練、組合活動など幅の広い活動を行った。当時のスラムの写真に、朝鮮の民族衣装のチマチョゴリを着た女性と、ゴム靴を履いた少年たちが多く写っている。最も貧しい地に生きる姿として撮影されている。

 日本は島国であるためか、外国人に優越感や劣等感を抱くことが多い。黒船来航以来、西洋人に敬意を表し、欧米人のための異人館地域が作られて、現在の観光名所となっている。賀川督明氏によると、西洋人の生活には牛肉が欠かせなかったので、異人館地域の側には牛を屠殺し精肉する人々が移り住んだ。その多くは差別を受けていた人々だった。被差別の者たちが集まると、他の貧民や流れ者が移り住むようになり、スラムが形成されていった。講演者は「抑圧されている苦しみから解き放たれる一番安易な方法は、誰かを抑圧することだった」と語り、社会から抑圧されているスラムの町の中で、苦しむ者同士が支え合うのではなく、むしろより弱い者を抑圧するようになったと描写する。スラム内に、抑圧者と被抑圧者という序列が出来上がり、その結果、スラム内で最も虐げられたのがアジア系の人々だったというのである。その記録としてボロボロのチマチョゴリを来た婦人とゴム靴の少年たちの姿があり、賀川豊彦はその人々にキリストの愛の奉仕を続けたのである。

 この講演を聞いて、心が刺される思いがした者が少なくなかっただろう。抑圧されて苦しむ者が、もっと弱い者を虐げる。これは学校でのいじめ問題、家庭でのいびり問題でも同じであり、ゆがんだ優劣感を伴う愛国心の根として、人間が持つ罪の性質がにじみ出るところではないだろうか。多くの人が身に覚えのある「甘苦い味」とも言える。

 私も人々に健康的な強さを身につけて欲しいと願うが、それはあの「甘苦い味」に酔いしれる強さではない。そして、ゆがんだ愛国心を吹き出す強さでもない。賀川豊彦がキリストの愛を実践しようと苦闘し続けたように、粘り強く奉仕の心を深め続けていきたい。「一人は万民のために、万民は一人のために」、本当の強さを学ぶ者になりたいと願う。
 
(2013年8月「りばいばる」誌)